KCC JOURNAL
KCCジャーナル
マインクラフトが育む「人間力」

放プロに参加するキッズたちは、マイクラを通して多様性を受け入れる心を持つ機会に出会っていました。 そして、オンラインゲームだからこそ自己肯定感や達成感に出会えることを子どもたちから学びました。
連載『メタバースの裏側で』第1回目
シリーズ『メタバースの裏側で』について
Kids Code Clubが毎週開く無料オンラインイベント、放課後プログラミングクラブには様々な背景を抱えた子どもが参加し、自由にプログラミングやデジタルクリエーションの活動・学習を行っています。私たちの活動は一見、デジタルスキルの向上を主眼にしているように見えますが、それ以上に「心の成長」をする場を子どもたちに提供したいという願いがあります。お互い学年も実名も知らない者同士、メタバース空間でプログラミングなどに取り組む中で、私たちが想像すらしなかった心の成長を遂げる子を数多く目撃してきました。本シリーズでは放課後プログラミングクラブというメタバース空間が子どもにとってどれだけ貴重な成長の場となっているか、実例を通してお伝えしていきます。
子どもがパソコンにしがみつくようにしてゲームに夢中。それを横目に「いつもゲームばっかりして!」と親が声を荒げるーー。小中学生の子どもがいる家庭ではおなじみの光景でしょう。Kids Code Clubでも頻繁に利用している「マインクラフト」(通称マイクラ)は一見すると多くの保護者が考える「ゲーム」のようですが、それに夢中になる子どもたちが生きる希望や活力を見出す居場所になっていると知ったら、果たして同じ言葉をかけるのでしょうか。
Kids Code Clubが毎週火・金曜日の午後5時から1時間開催する「放課後プログラミングクラブ」(通称放プロ)というオンラインのデジタル体験・学習クラブでは、マインクラフト教育版を利用して多くの参加者がマイクラで遊んだり作業したりしています。その放プロの常連である小学生たちがどんな思いでマイクラに熱中しているのか直接話を聞いてみました。

子どもたち制作のおまつり会場。マイクラでは子どもたちが仮想空間で様々な風景や建築物を自由に作っていく🦉マインクラフト
世界で最も売れたコンピューターゲームとして有名で、日本でも子どもから大人まで数多くのユーザーがいる。「ワールド」とよばれる広大な仮想空間を探検しながらアイテムを獲得するゲームモードがある一方で、数多くの種類や機能を持ったブロックで土地や風景をデザインしたり、建物を建築したりするクリエイティブな遊び方もできる。
マイクラで思う存分「問題解決」に挑む ー t-k-shuさん
放プロに来始めて3年余りのt-k-shu(ティー・ケー・シュー)さんは現在小学5年生。小1の時に家族からScratchプログラミングの本を贈られてからプログラミングに熱を入れ始めました。「長い時は一日10時間やることもあった」(t-k-shuさんのお父さん)ことから、ちょっと気をそらそうと今度はマイクラに触れさせたということです。

一つの仮想空間に何人もの子どもたちが参加して共同作業ができるマイクラ「どうやったらうまくいくか話合いませんか?」ー ”事件”に直面した小3の子が突如の提案
「最初は建築をやったりアイテムをゲットしたり、普通に楽しんでいました」
学校の友達数人がNintendoのSwitchでマイクラをやっていたので、t-k-shuさんも自然と仲間でマルチプレイをするようになります。
🦉マルチプレイ
複数のプレーヤーが同じワールドの中に共存でき、他のプレーヤーといっしょになってゲームや建築を楽しむことができる。
ところが、なかなか時間を割けられなかったり、クラス替えなどもあって、決して友達とのマルチプレイにどっぷりはまるようなことはなかったそうです。
そんなある日、すでに参加していた放プロでマイクラの「マルチプレイ大会」が初開催されました。広大な仮想空間の中で、様々なデジタル素材で建造物や地形などを参加者全員で作るイベントです。そしてそこで「事件」が起こります。
広大とはいえ限られたスペースに何人もの子が一斉に走り回って陣地を張り、建物を作っていく。自由に作れるのですから当然壊すこともできます。壮絶な創造と破壊の「カオス」が始まったわけです。「子どもたちも、あれやめて!これやめて!とカオスな状態になってしまいました」(KCC事務局長川添浩司氏)。そのイベントが終わるとt-k-shuさんはスタッフに”直訴”しました。
「次回からどうやったらうまくいくか話合いをしましょう」。
もちろん放プロ運営について子どもから直接提案を受けるなど前代未聞のことでした。

マルチプレイではこのようにカオスな状態になってしまうことも...「大問題を一気に解決したい!」
「一人ひとりばらばらに行動していて統制が取れていなかったんです」とt-k-shuさんは振り返ります。問題の核心はオンラインだからこその「勘違い」が存在する点。それぞれの子どもには画面に映るものはすべて「自分のもの」に見えてしまう。だから作るのも壊すのも自由にやってしまうということだったようです。
その次のマルチプレイ大会でt-k-shuさんは参加者全員に向けて「こうやったらもっと面白くできるよ」とプレイのルールを積極的に提案。学年が上の子も多かった状況でもひるまず声をかけたのです。「スタッフからルールを与えるのではなく、子どもたちの間でルールを決めていくのは、あのt-k-shuさんの声掛けが初めてでした」(川添氏)。そこから放プロではチームで取り組む文化がスタートしました。

子どもたちからのアイデアを元につくったKCCマイクラ10のルール(一部)t-k-shuさんの問題解決意欲はその後も続きます。特大ジェットコースターを作る回では「領土問題」が発生。”縄張り”がかぶって喧嘩になるのをどう避けるかを考えました。さらに目を付けたのが「不平等問題」。子どもによって取得した装備やアイテムに差が出て、少ない装備しかない子がなかなか楽しめなかったり、時にはアイテムの独り占めすらも発生していました。t-k-shuさんはその都度、「チャットシステム」や「通貨システム」など奇抜なアイディアを練って、それをどう実行できるか、放プロ仲間と話したこともあったそうです。
「大問題が起こったら一気に問題解決したいんです」
ゲームで遊んで楽しむより、放プロというコミュニティがどううまく行くかを考えたい。そんな社会貢献的な姿勢は学校でもうまく発揮できているのでしょうか。
学校ではなくオンラインだから発揮できたリーダーシップ力
「いや、学校ではそうでもないから」ときっぱり。そもそも学校では全体を揺るがすような”大問題”があまりないと言いますが、そもそも学校は先生主導であって、子どもにルール作りを託すようなやり方はまだまだ限られていると言えます。それよりも、対面で個々人の付き合いが発生する現実の世界では「人間関係が微妙になるし、躊躇してしまう」(t-k-shuさん)こともあるようです。
ところが放プロでは忌憚(きたん)なく「何か自分にできることはないかと考える」のは、「オンラインはあまり個性がない」場だからだとt-k-shuさん。つまり参加者の関係性がフラットになるからこそ、自ら持つリーダーシップ力が発揮できたということなのでしょう。大勢の高学年の子を前にしてマルチプレイルール導入の提案ができたのもそうした背景がありそうです。
t-k-shuさんにストレートに聞いてみました。「ゲームとマイクラ、どう違う?」
「ゲームは団結という面ではいいけど、仲良くなる度合いが弱い。マイクラは団結はそうでもないけど、仲良くなる度合いが強い」
モノづくりに協働でチャレンジするマイクラは、ただ単にオンライン上でのつながりを提供しているだけではなく、自ら持っている人間力を生かす場でもあり、人への関わり方を学ぶ機会にもなっているようです。やはり子どもにとって普通のゲームとは一線を画しているのは間違いありません。

マイクラで建築する建物の中にはこんなに大きくて複雑なものも。だからこそチームワークが活きてくる。一人ゲームでは味わえない「二人でものづくり」の楽しさ ー Aoiさん
放プロに通い始めてちょうど2年のAoi(アオイ)さんは現在小学6年生。小3の時にプレゼントでもらったNintendo Switchでゲームを始めました。小4の夏に親から放プロを紹介され、初めてのオンラインイベントに参加しました。

やっぱりこれからもマイクラをやり続けたい」とAoiさん現実では‟不可能”なコミュニケーションを可能にするマイクラ
「みんなで建物を作るのがめちゃ楽しいことがわかった」
Switchでマイクラを始めた時は「サバイバルモード」というゲームモードで遊び始めたものの「最初はすぐ倒されたりして、面白味がわからなかった」そうです。マイクラの楽しさに出会うのは放プロに来てからでした。
放プロ初参加にして初のマルチプレイで「プール作り」を体験します。慣れないパソコン操作に悪戦苦闘し、共同作業どころではなかったそうです。そして2回目の参加で1つ年上の子に「一緒に作ろう」と誘われ、そこで「共同作業」に初めて出会います。
「(その子からは)いろんなことを学びました」
マイクラでの建築を始めたばかりのAoiさんにその子はテキストの「チャット」だけでいろいろなことを教えたといいます。
「最初からチャットだけだったので僕もチャットでやった」
オンラインの仮想空間(バーチャルスペース)を利用する放プロでは、子ども同士がマイクを通して音声で話すことが簡単にできます。ところがマイクもカメラもオフにしてテキストチャットだけでコミュニケーションする子は少なくありません。Aoiさんはそれでも慣れないタイプ入力で粘り強くやりとりを続けました。その後も頻繁にコンビで建設プロジェクトに挑戦。当然、Aoiさんのスキルはグングンと伸びていきました。
「一人でやっているよりみんなでやったほうが上達すると思った」

Aoiさんがはじめてプレイしたプールづくりのワールドコミュニケーションをしない子でも共同作業で遊べる!
Aoiさんは放プロが始まると他の参加者に「一緒にやらない?」と声をかけ回る外交的な性格です。「一緒にマイクラやりたい子がAoiさんのまわりに集まってくる」(川添氏)。中には音声どころかチャットですらコミュニケーションをしない子もいるのです。そんな子でもAoiさんとは一緒にマイクラに取り組めます。他の子がどんな建物を作っても受け入れ、Aoiさんから「こうしてみませんか、こうしたらいいよ」などと声をかけることで共同作業が進みます。
「僕は(建築現場が)ゴタゴタになってもみんなとやるほうが好き」
現実の人間関係では「声でもテキストでもやりとり一切なし」というのは完全に交友関係を断ち切る状態に等しい。ところが放プロというオンラインの世界では他の子との言葉を介さないふれあいは十分に可能で、マイクラというシステムを通して共同作業すらできるのです。それもAoiさんのように「子どもが子どもを受け入れる」カルチャーが育まれている放プロならではの光景だともいえます。
放プロでは参加当初は全くコミュニケーションをとらない子でも「居場所」を求めて通い続け、いつの間にか自分で作った作品を人前で披露するまでになった子もいます。その過程で子どもたちが獲得しているのは技術的なスキルでも、プログラミング的思考などでもなく、人とかかわりを持つことで自分の存在を確かめられるというごく基本的な「人間性」です。マイクラはそういった「誰もができる人間としての成長」を演出してくれる大切なツールだと言えます。

Aoiさんが取り組んだ最近のマイクラ作品子ども自身がワールドを作る企画を提案
Aoiさんのマルチプレイ好きは放プロにも大きな変革をもたらしました。開始当初のマルチプレイイベントでは、KCC側がある程度のワールドを準備し、その中で参加者がいろんな建物を作るのが通常でした。そんな中「自分で作ったワールドで他の人に遊んでほしい」という一心からAoiさんが「自作ワールドの提供」を提案したと言います。
子ども提供のワールド第一弾はAoiさんの渾身の作、「エンダーパールゴルフ大会」。エンダーパールというアイテムを投げると、その落下地点に自分のキャラクターがワープする特性を利用したゴルフのようなゲームをするワールドをひと月ほどかけて制作。この子どもによるワールド提供は今も続いていて、しかも順番待ちという盛況ぶりです。

Aoiさんが制作したエンダーパールゴルフ大会のワールド”ゲーム”ではないゲーム、マインクラフト
放プロで利用しているマイクラはいわゆる「マインクラフト教育版」というもので、学校だけでなく学外(民間)での教育利用に特化した機能が充実していて、創造性、問題解決力、数学的能力などを高めるコンテンツが提供されてきています。もちろんそうした個人の能力を伸ばす効果が期待される一方で、放プロでのマイクラ利用では「多様性を受け入れる」感覚を養うのに役立っている点に是非注目してもらいたい。
「バーチャル建築」という作業の中で、デザインやプログラミングなどそれぞれの得意分野で貢献し、どんなスキルレベルであっても共同作業を楽しめる。そして、それぞれが一番心地よいコミュニケーションスタイルで子どもたち同士のやりとりが成立する。「こうあるべき」という”作法”が半ば強要されがちな現実の世界ではなかなか味わえない「居心地」を与えているのがマイクラなのです。

自分たちの好きなコミュニケーションスタイルでやりとりする多様な子どもたちt-k-shuさんが「マイクラは仲良くなれる」と通常のゲームとの違いを説明していたのは、様々な特性や価値観、スタイルを持った子ども同士でも楽しく創造作業に没頭できるからこその想いだと思います。子どもたちは普段の生活ではなかなかできない社会性の向上をマイクラを通して実践しているのかもしれません。
マイクラを知らない保護者の方にとってパソコンのスクリーンに映し出されるワールドの風景はどう見ても「ゲーム」にしか見えないでしょう。ただ、その向こう側で子ども同士が貴重な成長機会に触れているということも是非理解してほしいものです。
取材・執筆: 板垣政樹、川添浩司(一般社団法人 Kids Code Club)
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