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2025/3/17

テクノロジーの前に人間力が大切  ー  日米それぞれの就職につながった“非AIスキル”

Kids Code Clubで利用するIT技術やシステム開発を日米の学生インターンやプロボノが参加して進めるOne Code Clubプロジェクトでは昨年秋、AIをフル活用したデータ分析ツール、AI Insightsの開発を実施し、米国ワシントン大学 (UW) の卒業生2人がAIのプロンプトエンジニアリングに取り組みました。厳しい就活を経て今春、日本とアメリカでそれぞれの社会人生活をスタートさせる2人に就活のポイントやインターンシップの大切さなどを聞きました。

(聞き手:板垣政樹、Kids Code Club理事)


「人への貢献」を掲げるInformatics学科へ

名古屋出身の土方太河さんは、家庭の都合で幼少期にアメリカで生活した帰国子女でしたが、「若いころからしっかりと自分の考えを持っている人が多いというイメージがあり、そんな雰囲気の中で勉強したかった」と留学を決意しました。「英語ができたというのも大きかった」と言います。

土方太河(ひじかたたいが):帰国子女であり大学は米国ワシントン州、University of Washingtonへ入学。4年間で必須科目を学びながら、2年目以降はInformaticsの専攻としてテクノロジーの分野に興味を抱いた。プログラミングやデータベースの技術からプロジェクトマネジメントのコンセプトまで、授業で実用して学んだ。卒業後は日本の大手情報技術会社にてシステムエンジニアとして勤務予定。

第一志望だったUWに入ってからは専攻は持たず、「ビジネス指向だった」自分が進むべき道を考えながら勉強したと言います。そんな中でInformaticsという聞き慣れない専攻に出会い、「興味が湧いてきて専攻に至った」そうです。「Informaticsは社会や人に対する貢献を考えるところがあり、技術そのものというより、技術を人にどう使っていくかを学ぶ分野なので、そこもアメリカならではという印象もありました」。

【ワシントン大学のInformatics専攻】:
情報技術と社会の相互作用を学びます。カリキュラムは、データ、デザイン、開発、組織、社会など6つのコア領域で構成され、データサイエンスやサイバーセキュリティなどの分野も含まれます。詳細は公式ウェブサイトをご参照ください。

コロナ禍で勝ち取ったビジネススクール進学

一方、沖縄生まれで神奈川県育ちの曲田志帆さんはちょっと変わった大学への道を辿りました。「もともと祖父がアメリカの大学を出ていたので、小さいころから自分も海外で学ぶのかなと漠然と思っていた」と言います。ただ、高校卒業して大学へという通常のコースとは違って、高校3年の秋にオハイオ州の高校に入ります。「英語が全然できなかったので、そこで鍛えられました」。そしてワシントン州のコミュニティカレッジに入学。一般教養を2年間学び、UWのビジネススクール、Foster Schoolに編入しました。

【Foster School of Business】
UWのビジネススクールで、学部から博士課程まで幅広いビジネス教育を提供しています。特にMBAプログラムは、世界ランキングで常に上位に位置し、卒業後3ヶ月以内の就職率が99%と高い実績を誇ります。また、シアトルに位置するため、AmazonやMicrosoftなどの大手企業との連携やインターンシップの機会も豊富です。

2年制から4年制大学への編入は普通にあるものの、決して簡単なことではありません。コロナ禍の中で帰国を余儀なくされ、願書を出したのも「Foster一本だった」そうですが見事合格。「これはもう行けと言っているとしか思えなかった」と、休学も検討していた状況から一転してアメリカに舞い戻ってきました。

曲田志帆(きょくたしほ):沖縄県那覇市生まれ、神奈川県葉山町で育つ。高校時代にオハイオ州で2年間を過ごし、現地の高校を卒業。その後、コミュニティカレッジで2年間学び、ワシントン大学へ編入。大学ではビジネス学部でインフォメーションシステムとマーケティングを専攻し、コンサルティング、セールス、データ分析などの分野でインターンを通じて実務経験を積む。卒業後は、ワシントン州のシステムQA会社にエンジニアとして勤務。

ビジネス系から技術系への転換の不安 ー 吹っ切れたのはインターンシップだった(土方さん)

土方さんは大学で開催されていたキャリアイベントなどに参加し、「リクルーターとは早い時期からつながろうとした」と言います。当初はビジネス系の道に進む考えがあったので、最初のインターンは在米の日本人向け税務サポート。「個人情報管理などの問題から逆に技術を使わない環境だったのは勉強になった」と言います。ところがInfomatics専攻になってからは技術系のインターンを狙う方向へ転換し、大学内外でエンジニアや学生向けの技術サポートなどにも携わったと言います。

「それでも本当に技術系の仕事をするのが自分に合っているのかという不安はあった」という土方さん。様々な授業を受けていく中で自分の強みや課題も見えてきて、さらにOne Code ClubでやったAIプロジェクトも確信につながったと言います

「大学で勉強したことが(OCCでのAIプロジェクトで)活かせたというのが強い自信につながりました」。

"ボスキャリ”で掴み取ったシステムエンジニアとしての内定

在米日本人留学生向けの最大就活イベントの「ボスキャリ(ボストンキャリアフォーラム)」に昨年秋に参加。「もっとハードスキルを経験したかった」ことから、最終的にシステムエンジニアという職に就くことを決めた。

「この先の仕事でもAIなどは必ず関わってくると思いますが、やはり技術の前に人があるので、常に技術がどう人を支えるかという視点は意識していきたい」

「技術の前に人がある」というところは、初めて関わった税務処理のインターンでの経験が強く影響していると土方さんは強調します。

【ボストンキャリアフォーラム(通称ボスキャリ)】
毎年11月にアメリカ・ボストンで開催される、日英バイリンガル向け大規模就活イベントです。1987年から始まり、約200社以上の企業ブースで面接や説明会が行われ、数千人の学生が参加する。事前準備次第で、最短3日で内定獲得のチャンスも広がり、国内外の大手企業との直接対話が可能。自分の魅力を十分にアピールできる貴重な機会である。

大学でのサッカーの試合後にチームメイトと戦略の振り替えをする土方さん。在学中に力を入れたサッカーが土方さんの原動力だった。

「できない」を率直に伝える勇気  ー  インターンシップで養った自分の強み(曲田さん)

曲田さんが入ったのはビジネススクールとはいえ専攻は「情報システム」。「もともとは文系だった」という曲田さんが授業を通してプログラミングやデータベースなどのアプリに触れるうちに「私、これ好きかも」と理系に"目覚める"。「ソフトウェアなど技術の観点からビジネスを学べるのがとても面白かった」と振り返ります。

そして数々のキャリアイベントを通して最初のインターンを決めます。食品サービスの会社でデータ管理と分析をする仕事。ところが仕事の量が膨大で「終わらない仕事だったんです」と曲田さんは振り返ります。インターン期間を3か月延長しても終わりの見えない作業だったそうです。

「延長してからは授業も始まり、仕事も全然終わらないので、本当に辛かったです」と曲田さん。気が滅入っていく中で米国カルチャーを知る友人から声をかけられます。

「それ、マネージャーにちゃんと言わないとだめだよ」

「弱みを見せてはいけないと抱え込んでいた」状況から勇気を振り絞ってマネージャーとの1-on-1ミーティングで事態を告白します。返ってきた言葉が「よく話してくれたね。ありがとう」という言葉でした。「言ってよかったんだ」とそこで初めて気づきました。そして時間管理の方法や作業に対する考え方など多くをアドバイスしてもらえたそうです。

苦い経験から勝ち取ったOPTビザでの就職

こうしたインターンの経験から、上司や同僚とのコミュニケーションの大切さを学んだ曲田さん。卒業直後にソフトウェア系の品質管理会社で契約社員のポジションに就くことができました。曲田さんの場合は技術系の仕事をやるため、大学卒業後に使えるOptional Practical Training (OPT)ビザの「STEMエクステンション制度」で最長3年まで仕事ができます。そしてこの春、正式なフルタイム社員として働くことになりました。

「やはり積極的に提案や改善を話していけるようになった姿勢が今の契約につながったのだと思います」

【OPT(Optional Practical Training)ビザ】
米国にF-1ビザを取得して留学する大学生が卒業後に専攻関連の実務経験を積むため、最長12ヶ月の就労許可を得る制度。さらに、携わる業務がSTEM分野の場合、要件を満たせば24ヶ月延長が可能となり、合計36ヶ月間米国で働ける。

ビジネスのCapStoneコースのコンペで参加したグループが2位を獲得(中央が曲田さん)

インターンとしての経験が二人の成長を支える

OCCのAIプロジェクトで学んだAIプロンプト制作の経験を活かして「テストスクリプト作成にどんどんAIを利用している」と曲田さん。ただ、技術や知識の習得だけではなく、仕事をする上でのヒューマンスキルを獲得できたのが大きかったのは明らかです。それは土方さんも同様で、OCCのプロジェクトでは自ら曲田さんとの作業調整や相談を進めていって、チームワークの土台を作ってくれました。

「AIやデータサイエンスでの実績を積んで、また海外で必要とされる人材になって戻ってきたい」

就職先は日米で異なっても世界に目を向けている二人のこれからに期待したいと思います。

【執筆・聞き手】板垣政樹(いたがき・まさき)
Kids Code Club 技術担当理事。在京新聞社で経済記者として勤務した後、米国ERP企業で翻訳コンテンツ管理システムの開発に従事する。05年に米Microsoft社に移籍し、用語管理システムを開発。10年からはCloud + AI Platform部門にて音声モデル構築管理などに取り組む。現在はKids Code Club向けシステム開発を日米の学生インターンとともに進めるプロジェクト(onecodeclub.io)を主宰。著書に『ITエンジニアが覚えておきたい英語動詞30』(秀和システム)、『いますぐできる1分間プログラミング』(KADOKAWA)などがある。

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