KCC JOURNAL

KCCジャーナル

2026/8/24

並外れたバスケと英語の力を持ちながらもゲームエンジニアの道を選んだ理由とは ー 放プロで培われた「やりたいこと」を貫く“自分力”

Kids Code Club (KCC) が初めて子供向けプログラミングイベントを開催したのは今から10年前の2016年。当時小学生だった福岡県在住のheroさん(本名:砥川展明さん、18歳)がKCCのイベントに参加し始めたのも同じ頃でした。恵まれた体格から小中と地元のバスケットボールチームで活躍し、数学も英語も大得意。それでも高校はプログラミングの専門学校に進み、みごと横浜のゲーム制作会社への就職を決めました。中学の時に決めたゲームエンジニアの道をひたむきに突き進んだ理由は何だったのか。今夏就活に一区切りつけたheroさんに聞きました。

(聞き手:KCC理事 板垣政樹)


「高校、大学の7年を無駄に過ごすくらいなら、すぐに社会で活躍したかった」

KCC:就職内定おめでとうございます。どんなお仕事をされるのですか?

heroさん:格闘技系のゲームを制作する会社です。自分がこれまで力を入れてきたゲームエンジンの開発などに携われたら良いなと思っています。

heroさんが中学を卒業して進んだのは「バンタンゲームアカデミー高等部 福岡校」。高専とは異なるものの、KADOKAWAが運営する通信制のS高等学校と連携しているため、修了すれば通常の高卒資格がもらえます。卒業してすぐにゲームエンジニアになることは入学前からすでに決めていたと言います。

heroさん:高校、大学と7年間だらだらと過ごすぐらいなら、自分がやりたいゲーム制作を3年間集中してやって、すぐに企業に入って働くほうがよいと考えていました。

公文でも学んだ数学が得意な上、英語はなんと中学3年生で英検2級合格。現在身長196センチという恵まれた体格を生かして小中とバスケチームで活躍した経歴を考えると、順当に普通の高校へ進学するものです。それでもゲームクリエーターの道を15歳という若さで選んだのには、大人も顔負けの「人生戦略」がありました。

KCCのオンライン会議システムでしっかり思いを伝えてくれたheroさん(右側。左は聞き手の板垣)

小学時代はゲーマーでは全然なかったです

KCC:KCCのイベントに初めて参加したきっかけは?

heroさん:地元で開催されたScratchのプログラミングが体験できるイベントに参加したのが最初です。その後も英語でやるイベント(『英語で学ぶコンピューターサイエンス:CS in English』)などにも参加しました。でも、プログラミングにはまっていたわけではなく、バスケをやる時間のほうが長かったと思います。

KCC:ゲームとかはよくやった?

heroさん:任天堂Switchとかで遊んだことはありますが、「バスケ8割」という感じの生活でした。Scratchでプログラミングとかは週に1,2回やる程度だったと思います。

heroさんが中学になってのめりこんだのがScratchでの作品作りでした。KCCでもコロナ時期に入ってオンサイトイベントはなくなり、オンラインで子どもたちが集まる「放課後プログラミングクラブ(通称:放プロ)」が本格的に始まったのもheroさんが中1の時でした。

heroさん:放プロではScratchがすごく上手な子も参加していて、そんな子から教えてもらったり、スタッフとのやりとりなどを見たりして、ものすごい勉強になりました。僕にとって放プロは「プログラミングのオアシス」ともいえるコミュニティでした。

ここでheroさんはゲームクリエーターとして覚醒。その代表ともいえるのが「ネコの塔」というScratchゲーム作品集でした。「インディーゲームの中継を見ていて、‶青の塔”というミニゲームに出会い、そこからヒントを得て始めた」というシリーズは全部で50作品もあります。

1階から始まるシリーズ最終の「50階」は、水玉の敵を交わして上部のキャットに触れるという単純だがなかなか達成できない難ゲームとなっている。

50本もの作品(ハンドルネームは74hero)を作って公開し続けたのは、アイディアをScratch作品として発表したいという一途な思いから。ただし、「アイディアを作品にする力はついたけど、ただブロックを並べるだけだった」のでプログラミング力はそんなに伸びなかったと振り返ります。

JavaScriptとの出会いで一気にプログラミングの世界へ

放プロでのもう一つの大きな出会いはJavaScriptでした。ブロックを並べるScratchよりも「ずっと自分が思い描いていたプログラミングに近いものに出会えた」と言います。

Kids Code Clubでは、JavaScriptを使ったクリエーティブコーディングができる「p5エディタ」を使ったテキストコーディングのイベントやチュートリアルも積極的に提供していました。

キッズコードレシピではテキストコーディングに関するチュートリアルもたくさん紹介しています

heroさん:本当はブロックを並べるScratchはあまり得意ではなかったです。でも、英語を勉強していたこともあって、JavaScriptのコーディングのほうが自分にとってはしっくりくるものがありました。

当時はコロナ禍の真っ只中でheroさんは、mRNAワクチンがコロナウィルスを撃退するゲームなどもp5.jsで作って紹介していました。世の中がコロナのニュースに染まる中、世相を反映したゲームを作るのも「面白いかなと思って」作ってみたそうです。すでに”クリエーター魂”がしっかり育っていたのだと思います。

ゲームクリエーター甲子園で作品が入賞

バンタンに入ってからは文字通りプログラミング漬けの毎日だったそうです。指導官からも「最初の1年はAI禁止」というお達しが下り、AIに頼らずひたすらネットで調べるコーディング学習をしていきました。

heroさん:これまで3回ほど自分のゲーム作品を発表する機会があり、そこでイベントに参加したユーザーからフィードバックを受けることができたのがとても力になりました。それをもとに最後に挑んだゲームクリエーター甲子園で入賞できたのは本当にうれしかったです。

ゲームクリエイター甲子園」とは毎年ゲーム制作をする学生を対象にしたコンテストで、2025年の甲子園ではheroさんが制作したAlien's Daysという作品が、U-18の総合大賞にノミネートされました。

クリックするとノミネート作品一覧を見ることができます

heroさん:自分のアイディアや面白いと思うものを一番表現できたのがゲームでした。なので、自分の思いに共感してもらえるのがゲームクリエーターとしての面白さだと思います。それだけに甲子園で入賞できたのは、審査員にもその思いが伝わったというところがとてもうれしかったです。

高専や大卒組とのギャップを埋める”戦略”を考えた2年間

バンタンを卒業したらすぐに業界に入ろうと考えていたheroさんは、「単にゲームを作るだけでは仕事に就けない」と考え、技術レベルを向上させる勉強を始めます。

heroさん:もっと基盤の力をつけないといけないと思い、単にゲームを作るだけではなく、GitHubの運用やC++で堅牢なコードを書く勉強もしっかりやっていきました。そうしないと、高専や大卒の人とのギャップが埋まらないと思ったからです。

ゲームの描画やキャラクターの動きを担う「ゲームエンジン開発」にものめりこんでいったとのことで、ここら辺にheroさんの「本気度」が見え隠れします。

heroさん:高校生活の中でゲーム業界に入っていくという思いは一切くずれませんでした。本当に楽しい時間が過ごせました。

 

パソコンに向かってプログラミングをするheroさん

将来は海外でゲーム制作をやってみたい

ここまでしっかりゲームエンジニアとしての人生設計をしている人は周囲にはなかなかいないようで、それだけに「来年はプロと一緒に仕事ができるのが楽しみ」と言います。

それでも”攻めの人生設計”は単なる就職ではとどまるところを知らないようです。

heroさん:ゲームの文脈での英語の勉強は続けていて、(オープンソースの)コミットメッセージもしっかり英語で書けるようにしています。

KCC:将来は海外のゲーム制作会社で働くとか考えていますか?

heroさん:しばらく経験を積んだら、海外の大手ゲーム制作会社などに挑戦することもやってみたいです。

高校の段階でこんなにしっかりと将来設計を立てている人はそう多くないでしょう。それでも、AIが単純な人的作業を代替する中で「自分らしさ」を貫き、やりたいことに真剣に取り組む姿勢はAI時代の処世術として誰もが見習うべきところなのかもしれません。


インタビューを終えて

放プロはプログラミングのオアシスみたいなところ」と表現してくれたheroさんにとって、日本全国からプログラミングに興味を持った子どもたちが集まる放プロは色々な刺激がある”居場所だったようです。heroさんは高校に進むと「高校生メンタープログラム」に第1期生として参加し、今度は子どもたちにゲーム作りの楽しさを伝える立場で貢献してくれました。「学ぶ」と「教える」の両方で放プロに長く関わってくれたheroさん。今後も子どもたちのデジタルの学びを支え続けてくれることを大いに期待しています!


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