KCC JOURNAL
KCCジャーナル
【開催レポート】延べ3.5万人の子どもたちと歩んできた「オンラインの居場所」づくりの実践を共有

2026年5月7日、Kids Code Club(KCC)は、「セーブ・ザ・チルドレン 子ども・地域おうえんファンド」の助成を受けて、子ども支援団体や自治体、教育関係者向けのオンラインセミナーを開催しました。
KCCは2016年の設立以来、経済的困難や不登校など様々な背景をもつ子どもたちへ、デジタルを楽しく学べる機会を無償で届けてきました。延べ3万5,000人以上の子どもたちとともに歩む中で分かったのは、オンラインの学び場は、子どもたちにとって「ありのままの自分でいられる、安心できる居場所」にもなるということです。
セミナーでは代表の石川が登壇し、オンラインの場で子どもの声や主体性をどう大切にするか、そして子どもたちが安心して参加できる環境をどう守っていくかをテーマに、KCCが現場で積み重ねてきた実践を共有しました。子どもたちとともにつくってきたオンラインの居場所の経験を、これから同じように子どもの学びや居場所づくりに取り組む方々と分かち合い、次の実践につなげていくための時間となりました。
オンラインだからこそ救える子どもたちの存在

「本来平等であるはずの子どもの可能性を、生まれた場所に関わらず伸ばしたい」
セミナーの冒頭、石川はこの力強い言葉とともに、10年間の歩みを振り返りました。
IT業界の仲間が福岡で集まって、プログラミングやデザインなどをボランティアで教え始めたこと。コロナ禍を経て完全オンライン化し、今では国内外からのべ3.5万人の子どもたちが参加する、希少なデジタル学習コミュニティへと発展したこと。そして2年以上にわたり、子ども支援の国際組織「セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン」による助成や専門的知見に基づくサポートのもと、「子ども参加」と「セーフガーディング」の視点で、多様な実践知を積み上げてきたこと。
こうした取り組みを経てたどり着いたのが、「オンラインは対面の代替ではない」という確信です。

「不登校や経済的困難、病気などの理由で、リアルの居場所へ足を運ぶことが難しい子どもたちがいます。オンラインだからこそ繋がれる子どもたちが、確実に存在するのです」
様々な理由で外出が困難な子どもたちにとって、デジタル空間は単なる勉強の場ではありません。心理的・物理的障壁を乗り越えて社会や仲間と繋がることができる「子どもたちの居場所」になっているのだと言います。
いつもKCCの活動に参加している子どもがくれた「かぜぎみでも、ぜんそくでも参加できる。オンラインだから。」という言葉が、その価値を表していました。
子どもに安心感を与えるオンラインの「眼差し」と工夫

KCCの主要活動である「放課後プログラミングクラブ(通称:放プロ)」を、実際の活動風景を収めた動画とともに紹介しました。

画面には、丸いアバターになった子どもたちが、バーチャル会場を自由に動き回る様子が映し出されます。マイクやカメラはOFFのまま、「ピヨッ」という可愛らしい効果音のリアクションボタンが飛び交い、賑やかなチャットが流れる光景を見て、画面の向こう側の参加者も興味を引かれたのではないでしょうか。

ここで石川が共有したのは、オンラインならではの「関係性を強制しない」コミュニケーション術です。画面の中では、子どもたちが思い思いに過ごしていますが、なかには「今日は誰とも話したくない」「一人で集中したい」という子も。KCCでは、そうした子どもたちの気持ちを尊重し、それぞれが安心できる距離感を大切にしています。
こうした考えのもと、スタッフが話しかける際には必ず「名前を呼ぶ」ことをルールとしています。以前、「自分の名前を呼ばれる」だけでも「ここに居ていい」「自分の存在を認めてもらえている」と思えると、子どもが教えてくれたことがありました。また、コミュニケーションに慎重な子どもに対しては、プレッシャーをかけないように、あえて返事を求めない「独り言のような語り」を意識的に取り入れています。
たとえ返事をしなくても、子どもには大人の温かな眼差しが届いています。
「無理に話さなくていい。でも、なんとなく誰かといられる」――そんなゆるやかな繋がりが、子どもたちに安心感と自己肯定感を育んでいるのです。
子どもの主体性に火をつける仕掛け
セミナー中盤、話題は本イベントの核心である「子ども参加」へ。
石川は「子どもがその場にいるだけでは、"参画"とは言えないのです」と語り始めました。
ここで、放プロでの失敗談とそこから得た学びについてのエピソードが共有されました。
放プロには、子どもたちの気分や目的で選べるエリア(島)があります。「はじめて来た子が、他の子と仲良く活動するにはどうしたらいいか?」というテーマで子どもたちと話し合ったところ、「お互いのことをもっとよく知りたい」という意見が出て、自己紹介やおしゃべりができる「おしゃべり島」というエリアをつくることになりました。
しかし、実際につくってみると、ほとんど使われることがありませんでした。そこで、もう一度子どもたちと対話を重ね、今度は子どもたちが自由に看板を書き換えられるテント型の小さなスペースを用意することにしました。すると、常に満席の人気スポットになり、子ども同士の交流も自然と活発になりました。

思うような結果にならなくても諦めず、繰り返し話し合いの場を設けることで、「どうすれば良い居場所になるか」という正解のない課題に対して、子どもたちと一緒に試行錯誤できる機会となりました。この失敗と成功のプロセスは、子どもたちが主体的に運営に関われるようにするための重要なヒントとなりました。

ロジャー・ハート『子どもの参画』(萌文社, 2000)を参考に、Kids Code Clubが再構成・作成
この変化について、石川はロジャー・ハートの「参画のはしご」を例に出し、はしごの上段にあるように、自分の意思が反映される仕組みをつくることが、オンライン空間を「自分たちの居場所」にする鍵であることを指摘しました。
子ども参加に「深さ」と「広さ」をつくる
さらにKCCでは、子どもたちの「誰かの役に立ちたい」「自分でやってみたい」という主体性や意欲を後押しする仕組みとして2つの制度を実施しています。
キッズTA(ティーチングアシスタント)制度:「自分ができることで、周りの仲間を手助けしたい」という子どもたちが活躍する制度。それぞれの個性を活かしてコミュニティを支えています。
キッズティーチャー制度:プログラミングやデザイン、動画制作など子どもが自主的に企画・運営して講座を開く取り組み[2.1]。話すことが苦手な子は事前に丁寧な教材を自作するなど、自分の得意なことを得意な方法で共有し、教え合う楽しさを分かち合っています。

重要なのは、この制度の具体的な内容を大人だけで決めなかったことです。それぞれ、どんな役割か、どんな活動をするか、などを子どもたちと一緒に話し合いながら決めました。
子ども参加の場をつくるとき、「積極的に発言できる子だけが参加できる」という風になってしまうことがあります。しかし実際には、子ども一人ひとりにできることがあります。それぞれが自分らしさを活かせる機会を丁寧につくること、つまり、子ども参加に「広さ」と「深さ」をつくることが、非常に重要だと語りました。

「自分も放プロに慣れてきて、新しい人もたくさん入ってきてるから、せめて自分の知っていることだけでも伝えて、新しい人が役立ててもらえたらいいと思う。」
これは、キッズTAに申し込んでくれた時の子どもの声です。
これらの制度を通じて、子どもたちは驚くほどたくましく成長を遂げています。失敗してもそれを貴重な経験として捉え、自ら進んで次の挑戦へと向かう主体性をみせてくれるようになりました。
「大人が先回りせず、彼らの責任感と主体性を信じて見守る」スタンスが、KCCが目指す理想であることを改めて伝えるエピソードだと思います。
オンライン上での「セーフガーディング」

セミナー後半では、子どもの安心・安全を守る「セーフガーディング(子どもの安全管理)」の実践について紹介しました。 KCCではセーブ・ザ・チルドレン・ジャパンの「子どものセーフガーディングのための行動規範」を元に、オンライン特有のリスクを踏まえた行動規範を策定しています。
セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン
・こどものケンリ
https://asuno-compass.savechildren.or.jp/child-rights/learning_kit/index.html・子どものセーフガーディング
https://www.savechildren.or.jp/about_sc/quality1.html

【子どもたちに向けた「放プロ3大ルール」】
個人情報を教えない
人が嫌がること・困ることをしない
放プロの外で他の人とやり取りをしない
【スタッフ・ボランティアに向けた行動規範(一部)】
SNS等でつながることを禁止
SNS投稿禁止(公式のシェアのみ)
チャットでのDM禁止
LINEでの子どもとのやりとりを禁止(保護者とグループにする)
子どもとの1対1のクローズドな空間をつくらない
性別に関わる呼び方をしない
また、KCCでは、子どもたちの「SOSシグナル」の察知について、以下のようなデジタル特有の場面を共有しました。
プロフィールや掲示板の言葉: 家族や友たちに関する悩みなど
作品の内容や変化: 「少し不安定なのかな」と感じさせるような、作品の変化
マイクから漏れる環境音: 会話の背後から聞こえてくる、家庭内の激しい物音や声
このようなオンラインだからこそキャッチできるシグナルを見逃さない体制を整えるとともに、判断に迷う事案が発生した際は、外部の専門家であるセーブ・ザ・チルドレン・ジャパンへ速やかに相談し、子どもへの接し方やガイドラインを改善し続けてきました。
これまで取り組んできた中で気づいたのは、セーフガーディングにおいて大切なのは「完璧なルールをつくること」ではなく「考え続ける文化をつくること」だということです。出来事が起きるたびに、専門家の力を借りながら、子どもと一緒にルールの意味を考え続ける。その積み重ねが、子どもが本当に安心できる場所をつくっていくことにつながると語りました。
オンラインの居場所づくりの輪を、広げていくために
最後に、参加者へ向けて次のようなメッセージを送り、セミナーを締めくくりました。
「今日の共有が、皆さんにとって一歩踏み出すきっかけになり、子ども参加や居場所づくり、子どものデジタルの学びに取り組む方々と、緩やかに繋がっていけたら大変嬉しいです。うまくいったことや悩んでいることなど、これからもぜひ一緒に考えていきたいです。」
KCCはこれからも、オンラインだからこそできる子どもたちとの関わり方や、安心して参加できる環境づくりについて、現場での実践を重ねながら学び続けていきます。
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