KCC JOURNAL
KCCジャーナル
エンジニアには「スマートに学ぶスキル」が求められる ー ここ1か月で一気にAIフル活用に舵を切った現役Microsoftエンジニアが語る開発現場の今

米国ワシントン大学(UW)でコンピューターサイエンスの修士号を修得し、すぐにマイクロソフト社に就職したライアンさんは生粋のソフトウェアエンジニアです。およそ一ヶ月前に今回のセッションの打ち合わせをした際には「あまりAIは使っていない」と漏らしていた彼が開口一番口にしたのは「もう毎日AIを使っています」ー この間何が起きていたのか。開発事情が激変した背景などを聞きました。
Ryan Feathermanさん
米国マイクロソフト社でソフトウェアエンジニアとして勤務し、クラウド上でウェブサイトやアプリを動かすためのプラットフォーム「Azure App Service」の開発に携わっています。主にロードバランサーを担当しており、ネットワークと分散システムが絡み合う複雑な問題に日々向き合っています。

ライアンさんの親御さんは仙台出身。小学生の時に短期間、仙台の学校に体験入学の経験もあるそうです。写真は仙台のとある居酒屋。大学院はプログラミング言語を研究するラボに
ライアンさんの生まれはサンディエゴ。家族の影響もあって子どもの頃からコンピューターサイエンスに興味を持ち、学部でCSを勉強したあとにUWのPLSE (Programming Language and Software Engineering)というCSの‶ど真ん中”を研究するラボでテスト技術やコード管理の技術を研究しました。マイクロソフトのインターンシップでもサービスのIPv6対応というハードコアのプロジェクトに従事しました。
「AzureにはベースのAPIが用意されているので、それを利用するだけ。新しいリソース作りは楽しかったです」
まさに生粋のソフトウェアエンジニアです。
AIはほとんど使っていません・・・でした
インターンをしていた2022年当時は「今のようなAIはほとんど存在していなかった」とライアンさんは振り返ります。開発ツール内で次に書くコードを予測するオートコンプリートのような機能はありましたが、あくまでもコーディングの補助的なツールにすぎなかったと言います。
2025年は開発でAIを利用する世界は激変しました。GPT, GeminiそしてClaudeと、コーディング作業をサポートする機能が爆発的に向上し、ライアンさんも「昨年はAIがゼロから100に一気に伸びた感がある」と述べていました。ところが、今年に入ってからもライアンさんは日常の仕事でそんなにAIは使っていなかったと言うのです。
Github Copilotなどは使っていたし、AIチャットで質問したりはしていました。でもそれは「ほとんど使っていない」というのに等しいくらいでした
これは凄腕のエンジニアだからこそだと思いますが、自分が書きたいコード、書くべきコードがあればAIに作業をさせるような使い方は不要なのです。AIの性能をコントロールする「ハーネスエンジニアリング」という言葉が出てくるのはつい最近。昨年末などはやはりAIによる開発自動化などはたくさんの課題を抱えていました。それだけにAIを使わないエンジニアも数多くいたと思われます。

今は毎日AIにコードを書かせています
ところがここひと月ほどで状況は激変したようです。
開発ツール(IDE)内でClaude Opus 4.6が使うようになり、これが単にチャットで質問するような使い方から大きく変わっていった要因の一つだと思います。
Anthropic社のClaude(クロード)というAIモデルは今年Opus 4.6という最新モデルがリリースされ、Claude Codeという開発ツールとともに爆発的に人気が上がりました。「その性能が高いモデルが使えるようになったことも大きい」とライアンさんは強調します。
この最新モデルは、自律的に問題を検証して繰り返し作業を実行させて高品質な結果を出すようになり、単に一発回答のモデルとは大きく異なります。
今の自分はまるで「マネージャー」
この‶フルAI活用”になってから、例えばバグが見つかった際にはまずAIに投げて、原因の探知と修正をさせるようになり、こうしたプロセスは大きく変わりました。
しかし、AIが提示する修正案が本当に正しいか、別の箇所を壊さないかを判断する直感は、依然として人間の仕事です
単に仕事を「丸投げ」するのではなく、エンジニアとしての視点をしっかり持ってAIに仕事をさせるというのが単なる「バイブコーディング」とは全く異なるところです。
それでもエンジニアとしての仕事は大きく変わり、「各エンジニアがマネージャーになった形で、AIに開発タスクの采配をする」という毎日になったのは大きな変化だと思います
「各エンジニアが、ある意味マネージャーになりつつある。AIエージェントのマネージャーだ。4〜5本のスレッドを同時に走らせてマルチタスクし、レビューと判断は自分が担う」
ライアンさんはこのマネージャー的な役割に、自分なりの誇りを見出している。PRのコードは自分が書いたものではないが、方向性を示し、品質基準を満たすまで何度もイテレーションを重ね、最終的にすべての変更をレビューしている。それは、マネージャーが部下の成果物に責任を持つ感覚に近いという。

AIに頼りすぎると品質低下の懸念がある
今後の展望について、ライアンさんは楽観と懸念の両面があると言います。
楽観的に見れば、全員が毎日AIを使い、タスクの90%をAIが処理する世界が近い。これまで手が回らなかったストレッチゴールや細部の改善に、エンジニアが時間を使えるようになる。
これはすでに現実となっていて、どの現場でも製品や機能のリリースサイクルが短くなっています。ユーザーにとってはよいことでもありますが、開発者にとって達成感の衰退を引き起こしているという声も出ていて、問題にもなっています。
一方で、品質が低下する懸念もあると、ライアンさんは警鐘を鳴らします。ライアンさん自身も、よく理解していないコードでAIの初回出力をそのまま採用し、同僚のレビューでバグが発覚した経験があるそうです。レビューやテストの体制が甘ければ、生産性向上と引き換えに品質が落ちる危険がある。

今年の日本旅行で松島を訪れたライアンさん新しい技術やツールを素早く「学ぶ力」が大切
最後に、これからビッグテックを目指すCS学生へのアドバイスを求めると、ライアンさんは「AIスキル」そのものよりもメタスキルの重要性を強調した。
いちばん大事なのは、新しいスキルやツールを素早く習得できる力。ツールは数年で激変する。私が卒業した時点ではAIは重要じゃなかったが、学習能力があったから適応できた。
加えて、「良いソフトウェアとは何か」を見極める直感も欠かせない。AIが最初に提示した解決策を見て、それが正しいのか、改善が必要なのかを即座に判断する力──それは、コンピュータサイエンスの基礎教育を通じてしか身につかない。
AI時代だからこそ、AI抜きで学んだ経験に感謝している」とライアンさんは語る。ただし、こうも付け加えた。「前の世代の人たちもIDEのない時代を懐かしんで同じことを言っていたはず。本当にそれが重要だったかは、時間が証明するだろう
変化の速度に戸惑いつつも、学び続ける姿勢で適応していく。ビッグテックの現場から届いた、飾らないリアルな声でした。
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